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Sports For Allに、eスポーツの真価を問う

 
岩手県障がい者スポーツ協会
三浦 拓朗
   
 


スポーツは特定の人たちだけのものではない。性別や年齢、障がいの有無を問わず、すべての人たちのためにスポーツはある。Sports For Allの実現を目指したとき、果たしてeスポーツはどれだけの力を発揮することができるだろう。岩手県障がい者スポーツ協会の三浦拓朗氏に聞いた。


 
 
 

「ユニバーサル麻雀」と題したeスポーツ大会が行われたのは、新型コロナウイルスの猛威も幾分落ち着いたかにみえた今年7月だ。主催は、岩手県障がい者スポーツ協会。麻雀ゲーム「雀魂」をタイトルにした大会だ。タイトルを聞いて首を捻った者も多い。麻雀はeスポーツになり得るか。
 
「障がい者が健常者と同じフィールドでプレーすることを想定したとき、指1本の操作で戦えるという点は、決め手としてやはり大きかった」
 
そう語るのは、大会の火付け役である三浦拓朗氏だ。障がい者のスポーツ支援を目的に、大会の運営や指導者の養成など、これまでさまざまな取り組みを行ってきた。そんな三浦氏がeスポーツに着目したのは、スポーツと銘打ったこの新しい文化に、可能性を見出したからだ。
 
「コロナの影響で予定していた行事が次々になくなったとき、自分たちの役割についてあらためて考えた」と三浦氏。同協会は、Sports For Allを理念にしている。けれど、ALSや筋ジストロフィーなど外出が困難となった人々に対して、スポーツに参加するという選択肢を提供できるだろうか。

 
 
 
 
 
 

eスポーツなら可能にしてくれるかもしれないと思った」
 
そのとき目の前に広がったのは、指1本あるいは視線入力で、eスポーツを戦う彼らの姿だ。なんとかしたいとこれまで何度となく思いながらも、解決の手立てが見つからないまま今日にいたっていた。「無力感を感じたこともあった」と三浦氏は言う。おそらく喉に刺さった小骨のように、常に心に引っかかっていたに違いない。
 
eスポーツ大会は、協会にとって初の試みだった。知識もノウハウもない。ゼロからのスタートだ。そのなかで候補に挙げたタイトルは3つ。ウイニングイレブンと実況パワフルプロ野球、そして雀玉だ。「自分の知っているゲームが、単にこれしかなかった」と三浦氏は笑う。
 
ウイイレとパワプロはその操作性から、上肢を自由に動かせる人のほうが有利であると判断した。この時点で、これら2つのタイトルを採用する可能性は薄れた。タッグを組む岩手eスポーツ協会の助言もあった。身体的ハンディキャップが極力影響しないという条件で考えれば、麻雀ゲームがやはりおすすめである。
 
発案から3か月というスピードで、岩手県障がい者スポーツ協会による初のeスポーツ大会は開催された。題して「第1 岩手県ユニバーサル麻雀交流大会」。参加者はオン・オフ合わせて約20名。障がい者15、健常者5の割合だ。身体・知的・精神の障がいでいえば、精神障害を持つ人たちが多く参加した。どちらかといえば、これまで積極的にスポーツに取り組むことのなかった層だ。
 
「精神障害には主に統合失調症、うつ病、アルコール依存症が挙げられます。外出が困難な人も多く、家族を含め他者とつながるのが難しい病気といわれています」と三浦氏。今回、彼らの参加を促したのは、いうまでもない、オンラインというプレー環境だ。あるいは誰もが昔から知っている麻雀というのも大きな要素となっている。

 
 
 
 
 
 

午前9時50分からスタートした対局は、5時間超におよぶ戦いとなった。激戦に次ぐ激戦の末、見事に優勝を勝ち取ったのは、プレーヤーネーム捲りの新田。一進一退の攻防が続く最終局の終盤で、実力者のまなべのどかを跳満で下すという逆転劇を起こした。
 
「会場には、おおっというどよめきが響きました」と振り返る。
 
優勝者には賞品が授与された。賞品にはカップラーメン1ケースがリクエストされたが後日、本人からフルーツゼリーに変更したいという申し出があったという。「心境の変化では」と三浦氏は予測する。最初はひとりで食べるつもりでカップラーメンをリクエストしたが、あとから考え直してみんなで食べられるものを選んだのは、家族を喜ばせようとしたからではないか。
 
大会を終え、三浦氏はこう語る。「試行錯誤しながらであったが、自分たちにとっては一個の実績になった。だけど、最終的なゴールはALSや筋ジストロフィーの人たちもスポーツに参加できること。そういう意味では、ロードマップの第一地点を通過したにすぎない」

 
 
 
 
 
 

 

麻雀はeスポーツになり得るか。
 
果たしてそれは、eスポーツはスポーツかの議論に等しい。
 
「自分自身、長く野球をやっていたので、ゲームとスポーツは別だと思い続けていた。国が明確に定義しない限り、この論争は繰り返されると思う。ひとついえるのは、eスポーツがスポーツと定義されることで、しあわせになる人が数多くいるということだ」
 
eスポーツが社会にもたらす影響はいまにとどまらず、今後も世界的に広がっていくと三浦氏はみている。大切なのはそれをどう活用していくか。「テクノロジーの進化と発展は、健常者だけの話でいえばすでに十分。だけど、何らかの障がいを持っていたり、生きづらさを感じていたりする人たちにとってはまったく別。ネットワークにつながることで生まれる可能性が、彼らには無限にある」
 
Sports For All――すべての人がスポーツに参加できる社会の実現を目指し、eスポーツの可能性を広げてゆくこと。それが自分たちの役目だと語る。次回、「第2 岩手県ユニバーサル麻雀交流大会」は1213日に開催だ。


(2020.11.30)
 
 


TAKURO MIURA◉1966年生まれ、岩手県普代村出身。大学卒業後、中学校講師として子どもたちの教育に携わる。その後、知人から声がかかり福祉の現場へ。岩手県障がい者社会参加推進センターに勤務する。2017年より一般社団法人岩手県障がい者スポーツ協会を設立し、常務理事兼事務局長を務める。協会のFacebookのアカウント→すけでケロ


 
 

 
 
 

文◉和野史枝(山口北州印刷)
 

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