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ゲーム、そしてeスポーツ
17歳の座標

 
フォートナイト
中村 森羅(Shemtan)
   


ザ・リーパースキンを華麗に操る17歳。中村森羅。広汎性発達障害を持つ。幼少期からゲームに触れてきた彼が、いま思うこと。感じていること。そしてそう遠くない未来のこと。ゲーム、そしてeスポーツをとおして、自身の障がいと向き合う姿に迫った。


 
 
 


ゲーム開始から24分を迎えた最終局面。縮小する戦闘区域のなかに、突如現れた黒スーツの男によって、勝負は決定づけられた。キアヌ・リーブスを彷彿とさせる、この男スキンの名はザ・リーパー。操るプレーヤーはシェムタン。聞いたことのないプレーヤーネームに首を捻る間もなく決着はついた。生配信の最後の最後、わずか1分間の出来事だ。
 
「第5回スタスタオンラインフォートナイト大会」は今年1月に開催された。試合はオープンの部、デュオの部、岩手県民限定の部で構成され、3部門合わせて130人のプレーヤーがビクトリーロイヤルを目指して戦った。
 
フォートナイトは世界で3億5000万人超の登録プレーヤー数を持つバトルロイヤルゲームだ。日本の人口を優に超えるプレーヤー数が人気の規模を示している。
 
「オンラインで集まった最大100人のプレーヤーが、生き残りをかけて戦います。アメリカのゲームですが、2018年の3月に日本でもリリースされ、大人気となりました」


 
 

 
 


明朗快活に話すこの少年は、中村森羅。支援学校に通う17歳。彼こそが、今大会で優勝をさらったシェムタンだ。ゲーム歴は15年。サルゲッチュに始まり、モンスターハンターからマインクラフトへ。そしていま、フォートナイトをプレーする。
 
「安全地帯が小さくなる手前で敵の真下に潜り込んで自分の建築を固めました。そのあと編集で壁を開けて回復した敵を倒しました。回復アイテムを結構取れていたので勝てましたが、もしも回復が取れていなかったら、上にいた人が間違いなく勝っていたと思います」
 
優勝した瞬間は、うれしかったというよりびっくりしたという。優勝して変わったことは、誰かとチームを組んでやりたいと思うようになったこと。プレーはいつもソロでやっている。デュオ(21チーム)やスクワッド(41チーム)の経験はまだない。その理由を「上手くならないと相手に迷惑をかけてしまうし、迷惑がかかると相手の気分を悪くしてしまうから」と話す。何故そのように思うのか?の問いには、長い時間考えたそのあとで、「俺は教える(伝える)のが苦手でね」と答えた。


 
 

 
 


広汎性発達障害とは、脳の機能が原因の先天性の障がいだ。人との関わりが苦手だったり、空気が読めなかったり、興味やこだわりがかたよっていたりなどの特徴を持つ。3年前、中学校の修学旅行で障害者手帳を見たとき、はじめて自分が障がい者であることを知った。だからいま少し悩んでいる。どうして普通の高校に行けなかったんだろう。どうして読めない漢字があるんだろう。どうして人の言っている言葉の意味がわからないんだろう。
 
「読めない漢字があると自分の気分が悪くなります。生きているのがあんまり楽しくないなと思うときもある」
 
フォートナイトはフレンドの紹介で知った。PS4のフレンド機能で知り合った同年代のゲーム仲間だ。彼が障がい者であることをフレンドたちは知らない。だからこそ、そこには普通でいられることの心地よさがある。
 
反面、フレンドと接することで普通に対する憧れは日に日に強くなる。果たして彼にとっての普通とは、「学校帰りにマクドナルドに行ったり」「休みの日にみんなで遊びに行ったりすること」だ。
 
「それでもフレンドたちとゲームをすることで、だいぶ気が紛れているように思う」と母の律子さんは話す。人と興味を共有するのは苦手だが、フレンドとなら自然と話が噛み合う。ゲームの話題だからだ。
 
「でも最近はみんなエーペックスにはまっていて、フォートナイトはほとんどやらなくなった。だからいまはソロでやっている。デュオやスクワッドへの憧れはあるが、俺は連携が得意じゃないのでいまはこれでいい。自分が大変なときに助けてもらったり、相手が大変なときに助けてあげたり。それができる人たちは本当に素晴らしいと思う」


 
 

 
 


もしもプロのeスポーツプレーヤーを目指すなら、高校を卒業してからもフォートナイトを続けたほうがいいに決まっている。だけど同時に、やめてしまう日もいつかはやってくる。いつか、別のことに夢中になっている日もたぶんくる。
 
10年後はたぶん、ごろりと変わっている気がする」
 
3月、大会から2か月が過ぎたこの日。撮影場所である学校に、だけども彼は制服ではなく、ジーンズとパーカーでやって来た。まだ少し弱々しい春の日差しに照らされた、白いパーカーのその胸には、「FORTNITE」の文字が記されていた。


(2021.4.23)
 
 


SHINRA NAKAMURA◉2003年生まれ、岩手県盛岡市出身。岩手大学教育学部附属特別支援学校高等部に在学中の高校3年生。今年1月に行われた小誌主催のeスポーツ大会「第5回スタスタオンラインフォートナイト大会」にて岩手県民限定枠の優勝者となる。プレーヤー名はシェムタン。


 
 

 
 
 

撮影◉松本 晃(P-BOX)/文◉和野史枝(山口北州印刷)/取材協力◉岩手大学教育学部附属特別支援学校
 

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