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eスポーツの未来に挑む

 
クラッシュ・ロワイヤル
岩崎 匠実(nichrome)
   


プロゲーマーはいまや若者の憧れの職業だ。しかし彼にとってプロゲーマーはもはや憧れではない。彼にとってそれは、すでに現実だ。21歳。プロという現実に挑む姿に迫った。


 
 
 


契約満了から1年と8か月が過ぎた。不遇な期間と呼んだら本人はいやがるだろうか。それでもやはり彼自身にしてみても、もどかしい時間だったのではないかと思う。
 
ニクロム氏が「FAVゲーミング」に在籍していたのは2019年から2020年にかけての約1年間だ。ファミ通などを発行するKADOKAWAゲームリンケージがプロデュースするプロゲーミングチームだ。そのクラッシュ・ロワイヤル部門にアナリストとしてメンバー入りを果たしたのが3年前。キャプテンのけんつめしを筆頭に、だに、JACK、きたっしゃんという錚々たる顔ぶれを、監督のおこめちんが率いるチームだ。
 
そんな彼らが2019年のクラロワ公式プロリーグ「クラロワリーグ(CRL)」で世界ベスト4の成績を残したのはいまも記憶に新しい。賞金総額40万USドル、日本円にして4千400万円をかけての戦いだった。


 

 
 


クラロワとの出会いは高校時代に遡る。当時所属していたバスケットボール部でにわかに流行りだしたのがクラッシュ・ロワイヤルだったという。スマートフォン一台でできるこの無料のゲームアプリに、だけどものめり込んだのは自分ひとりで、気づけば本業のバスケよりも面白くなっていた。
 
「ちょうど高3のときに日本一決定戦があって、これをきっかけにどんどん夢中になっていった記憶がある。結果は予選敗退だったが、あと1勝か2勝のところで敗れたことで、逆に病みつきになった」
 
クラッシュ・ロワイヤル、通称クラロワはRTS(リアルタイムストラテジー)と呼ばれるジャンルのゲームだ。8枚のカードで構成される〝デッキ〟を使い、3分間で相手より多くの城を破壊した者が勝利する。自分の手札をいかに相手に読ませないようにするか。同時に、いかに相手の手札を読むかが決め手となる。駆け引きの面白さが多くの者を魅了する。世界で5000万人以上がプレーする。
 
「相手チームの情報収集をしたり、手持ちのカードの傾向を探ったりなどがアナリストの役目」とニクロム氏。監督やメンバーとともに戦略を立て、チームを勝利に導く。
 
FAVゲーミングには監督のおこめちんに自らコンタクトを取り入団したという。高校を卒業し一度は千葉県にある電気系の会社に勤めたがほどなく退社。そのころ偶然にもSNSでクラロワに関わる機会があったことから行動に出た。おこめちんとの面談後、1週間のテスト期間を経て正式にチームに所属する。
 
プロゲーマーの生活は、大会出場と大会に向けたトレーニングの繰り返しだ。試合のない日は練習に取り組む。リーグ期間中は数か月ものあいだ海外に滞在し、トレーニングを行うこともある。ちなみにベスト4となった2019年の世界大会は米国ロサンゼルスで行われた。また、準優勝を果たした同年アジア大会シーズン2の会場は韓国ソウルだった。
 
eスポーツという煌びやかな世界の真っただ中にいるなかで、しかしニクロム氏は「当時はプロとして長くやっていくと思っていなかった」と語る。年が明け監督との話し合いですんなり契約満了としたのも、おそらくさほどの執着心を持っていなかったためだろう。


 

 
 


チームを退団したあとはアルバイトをしたりしなかったりしながら、大会の企画運営や配信などで収入を得た。ときどきゲームに関連したライターの仕事をすることもあった。「次のことは何も考えていなかった」と言う。そして2020年春、新型コロナウイルスのまん延をきっかけに地元の岩手に戻る。
 
「岩手に帰ると決めた時点で、プロとしてこの先ゲームに関わっていくことを決意していた」とニクロム氏。そこから約半年、驚くほどさまざまなことをした。加入できるチームを根気よく探した。スポンサーになってくれそうな企業に自ら営業をかけた。協会に足を運びバックアップを求めた。けれど、すぐには実を結ばなかった。コンビニエンスストアでアルバイトをしながらつないだ時期もある。不遇の期間だった。
 
最近になってようやく所属チームが決まった。「RxR」。今年7月に設立されたばかりの株式会社T−secondが運営するプロゲーミングチームだ。この1年8か月を振り返ってどう思うかの問いに、彼はこう答える。
 
「FAVゲーミングを退団しプロではなくなったからこそ気づけたことがある。たとえばゲーム1本で勝負していくにしても、そのなかでの選択肢はいくつか用意しておくべきだということ。プレーヤーだけにこだわるのではなく、ゲーム配信のプロデュースから選手の育成まで、プロの肩書をいかしてやれることはたくさんある」
 
活動再開。その姿は自身の未来に挑んでいるかのようである。夢と現実のギャップに誰もが足をすくめ、勝負に出ることを必要としない世界に流されていくなか、ゲームという未知のジャンルにひとり踏み出す。進め。勢い勇め。目指す世界は甘くない。だからこそ、受けて立て。eスポーツの未来に挑め。


(2021.8.31)
 
 


TAKUMI IWASAKI◉1999年生まれ、岩手県盛岡市出身。プロゲーミングチーム「RxR」所属。2019年よりKADOKAWA Game Linkageが運営するプロゲーミングチーム「FAVgaming」に在籍し、世界大会をはじめとした公式プロリーグにアナリストとして出場した経験を持つ。Twitterのアカウント→@1eBrg


主な成績◉
クラロワリーグ
世界一決定戦2019 ベスト4
アジア2019 シーズン2 プレイオフ準優勝
アジア2019 シーズン2 グルーブB1位
アジア2019 シーズン1 グループB5位


 
 
 

 
 
 

撮影◉大谷広樹(Ojyu)/文◉和野史枝(山口北州印刷)/取材協力◉SUNDANCE
 

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