BACKSTAGE PLAYER
eスポーツにビジネスチャンスを見いだせ
5月の開催から半年の期間を置き、G019サミットが今週末開催される。300人超の来場者を集めるこのイベントで、信田大知氏が担っているのは通信環境の構築だ。東北最大のゲームイベントの、ステージ裏に迫った。
ゲームイベントの成功の可否は通信にかかっているといったら言い過ぎだろうか。地元岩手はもとより全国各地からゲーマーが集結するG019サミットは、東北最大といえるゲームイベントだ。BYOC席に座る100人近くのプレーヤーが一気にインターネットに接続するなかで、いかに快適な通信環境を提供できるか。その役割は大きい。
2019年にスタートしたこのイベントに、信田大知氏は第1回目からチームで関わっている。eスポ元年と呼ばれた2018年よりNTT東日本岩手支店に勤務。ビジネスイノベーション部に所属し、現在はテクニカルソリューション担当の一員としてeスポーツに携わっている。
「僕らが普段やっているのは、いわゆるSE業務といわれる仕事です。お客様から受けたオーダーを、テクニカルな知識を用いて構築する役目というと、みなさんもイメージしやすいと思います」
G019サミットでは回線の手配が第一の業務となる。ここでは高速かつ安定性の高い光回線が用いられる。「必要な回線の数を確認して工事の手配を行います。実際に工事を行うのは別の部署の人間で、僕らはいわばその橋渡し役となります」と信田氏。
eスポーツに関わるメンバーは志田雅史課長、大平皓貴氏、そして信田氏の3人だ。少数精鋭ともいえるこの3人に、今年から松木飛龍氏、及川日菜氏の新人2人が加わった。彼らによって、LANケーブルの数やWiFiのアクセスポイント、ルーターの台数などの詳細が組まれ、ゲームイベントに適した通信環境が構築される。
ゲームイベントに適した通信環境。これは回線速度に依拠するといっていい。通常、我々がストレスなくインターネットを利用するのに必要な速度は10~30Mbpsといわれている。bpsとは通信速度を示す単位で、1秒間に何ビットのデータを転送できるかを指す。ゲームの場合は前述の数値の約3倍、30~100Mbpsが目安とされている。
「特にフォートナイトやエーペックスレジェンズなどのFPSはわずかなラグが命取りになる」と信田氏。安定した速度は必要不可欠と話す。「遅延負けは避けたい」とは、みずからもゲーム好きであることを物語る言葉だ。その意味では、ネット環境の構築はもちろん、快適な通信状態を維持することもまた重要な作業となる。
イベント当日、カスタムマッチに湧く会場の片隅で、PCに向かう彼ら3人が行っているのは通信環境の保全だ。速度が不安定になったり中断したりなどのトラブルに備える。「逆の言い方をすれば、何も起こらなければ出番らしい出番はない」と信田氏は笑うが、イベントの規模が大きくなればなるほど、だいたいは何か起きる。
一度でもゲーム配信をしたことがある者なら覚えがあるだろう。専門的な知識を持ち合わせていなくても、配信自体はできるし場合によっては大会を主催することも可能だ。ただしそれは何も起こらなかった場合に限る。ひとたびトラブルが起これば自分ひとりの力では対処不能となる危うさがそこにはある。
そう考えれば、ゲームイベントにはテクニカルな知識を持つひと、つまり専門家の力がまだまだ必要であることがわかる。成長過程にあるeスポーツをNTT東日本がビジネスチャンスと捉えている理由はおそらくそこにある。
「僕らの知識を必要とするひとにソリューションを提供できるという意味では、少なくとも僕自身はビジネスとしての価値を感じています」と信田氏は答える。ゲームが好きで、PCが好きで、この分野に進んだからこその言葉かもしれない。信田氏のなかでeスポーツは間違いなく輝きを放っている。
信田氏の勤務するNTT東日本岩手支店ではいま、これまで開拓したことのなかった分野をどんどん攻めているという。「僕のいるビジネスイノベーション部もそうですし、全社的にも本来業務である通信分野から非通信分野へビジネスを広げていこうという動きが進められています」
それはたとえばeスポーツであったり、教育であったり、あるいは農業であったりなどだ。そこで生まれた新しい価値をエンドユーザーに提供することができればビジネスとして成立する。非通信分野における新たなビジネスの創生機会を、信田氏はいまeスポーツに見いだそうとしている。
G019サミットまであと5日。バックステージプレーヤーとして通信環境を担うそのステージ裏もまた、eスポーツの未来を切り拓くべくライトに照らされている。
(2021.11.1)
DAICHI SHINTA◉1990年生まれ、秋田県出身。2018年よりNTT東日本岩手支店に勤務する。ビジネスイノベーション部テクニカルソリューション担当。SE業務を通じた地域活性化をミッションとし、eスポーツにも積極的に関わっている。
撮影◉清水健太郎(映光カメラ) 文◉和野史枝(山口北州印刷)