Sta×StaタイトルSta×Staタイトル

HOME | INTERVIEW | 13_岩渕大空

eスポタイトル
 
 

PLAYER

 

支えてくれた球団へ、「恩返し」の思いを込めて

 
プロ野球スピリッツA
岩渕 大空(‡クラリス‡)
   


2021年より始まった「eBASEBALLプロスピAリーグ」。昨年秋、陸前高田市出身の岩渕大空選手は東北楽天ゴールデンイーグルスのユニホームに袖を通し、国内最高峰の舞台を戦い抜いた。自らも球児として白球を追い掛けた少年時代。そこで受けた一つの恩が、彼を突き動かす原動力となっている。


 
 
 


4月にオープンした盛岡市のきたぎんボールパーク。岩手の野球の新たな聖地を横にして、インタビューは始まった。球場では高校の春季県大会が行われている。高らかに鳴り響く金属バットの打球音、そして観客席からあふれかえる大声援。「懐かしい気持ちになりますね」。彼は郷愁に浸りながら、にこりと爽やかな笑みを浮かべた。
 
陸前高田市出身の岩渕大空さんは、小学3年時に地元のスポーツ少年団で野球を始めた。中学でも白球を追い掛け、高校は大船渡高校に進み投手として活躍。そんな彼がモバイルゲームのプロ野球スピリッツA(プロスピA)を始めたのは高校2年のときだ。「最初は娯楽の一部でした。どの選手が当たったとか、友達同士で楽しんでいましたね」。プロスピAでは実在選手が3Dでリアルに再現され、シーズン中の実際の調子に応じて能力が変化する。「現実と連動しているのが楽しい」。野球をこよなく愛する少年は、瞬く間にそのゲームのとりこになった。
 
高校で野球に一区切りを付け、大学へと進学。コロナ禍により家で過ごす時間も多くなり、プロスピAのプレータイムはどんどんと増えていった。スマートフォンの故障を契機にデータをタブレットに移行すると、その熱はさらに高まりを見せていく。「ボールの回転や軌道が見やすくなりましたし、長時間やっても目が疲れにくくなりました。(生活の中で)ゲームをする比重も増え、『やるのならばやれるところまで挑戦してみよう!』という気持ちが強くなっていきました」


 

 
 


すると2021年、岩渕さんの背中を後押しするかのように、日本野球機構とコナミデジタルエンタテインメントが共催する「eBASEBALLプロスピAリーグ(スピリーグ)」の開催が発表された。スピリーグは実際のプロ野球と同じく、12球団がセ・パ両リーグに分かれてペナントレースを行った後、ポストシーズンで日本一を競い合う。プレーヤーはまず自分が希望する球団を選択し、オンライン予選に参加。そこで勝ち進むと球団代表選手の権利が与えられる仕組みとなっていた。
 
昨年、満を持して予選会に参加した岩渕さん。選んだ球団は、東北楽天ゴールデンイーグルス。そこには深い理由があった。「東日本大震災が発生したのが小学4年生のとき。津波で自宅は1階が浸水し大規模半壊となり、学校の校庭には仮設住宅が建ち、野球ができる場所すらなかった状況でした。そんなときに、楽天イーグルスさんが野球教室を開いてくださいました。そこでご指導をいただいたことが、自らの野球人生のモチベーションに大きくつながったんです。いろいろと支援していただいた分、その恩返しをしたいと思い、楽天イーグルスさんを選ばせていただきました」


 

 
 


オンライン予選を経て本戦に進んだ岩渕さんは、名だたる強敵を次々となぎ倒して決勝に進出。本人いわく「下剋上」の形で上位3人に与えられる球団代表選手の権利を見事に勝ち取った。「(代表入りが)いざ決まったときは全く実感が湧かなかった(笑)」と振り返る岩渕さん。スピリーグで着用するユニホームの背番号は「11」を選んだが、ここにも特別な思いを込めたという。「自分が高校で最後に付けた背番号でもありますし、震災時の恩返しという意味でも『2011年3月11日』と重ね合わせ、この番号を希望しました」
 
昨年のスピリーグは11月に開幕。毎週末、岩渕さんは東京まで足を運び、歴戦の猛者たちとしのぎを削った。楽天イーグルスはペナントレースで2位となりクライマックスシリーズに進出するも、ファイナルステージで敗退。日本一こそかなわなかったが、今大会で岩渕さんは社会貢献に寄与する行動などを行った選手に贈られる「ナイススピリッツ賞」を受賞した。「もし普通に暮らしていたら、支援をいただいたままになっていたかもしれない。このようなプロの世界に立って、恩返しや感謝の気持ちを発信できたのは、自分の人生の中でも大きなことでした」


 

 
 


eスポーツの道を究める一方で、学生の頃から看護師を志していた岩渕さん。4月からは病院に勤務し、夢への一歩を踏み出した。「ここがゴールではありません。まだまだ勉強中です」と社会人1年目の今は忙しい日々が続くが、職場の了承が得られれば今年もスピリーグの予選会に参戦予定だという。ちなみに大船渡高校の1学年下には、WBCでも大活躍した佐々木朗希選手(千葉ロッテマリーンズ)がいる。同じ投手として切磋琢磨した後輩の活躍ぶりを「自分の活力になっている」と称える岩渕さん。それでも「自分もプロである以上、結果が求められます。立場こそ違いますが、彼に負けないような結果を残したいです」と心の奥底にある炎をたぎらせている。
 
eスポーツが導いた、少年時代の「恩返し」。あの頃から続く感謝の気持ちを胸にしまい、そしてプロとしての使命を一身に背負いながら、これからも岩渕さんはタブレットを片手に、大好きな野球に情熱を傾けていく。


(2023.6.25)
 
 


SORA IWABUCHI◉2000年生まれ、陸前高田市出身。小学3年から野球を始め、大船渡高校では投手として活躍。卒業後は岩手医科大学看護学部に進み、在学中の昨年秋、「eBASEBALLプロスピAリーグ」に東北楽天ゴールデンイーグルスの代表選手として出場した。


主な成績◉
eBASEBALLプロスピAリーグ 2021シーズン イーグルス代表決定戦 オンライン予選6位
eBASEBALLプロスピAリーグ 2022シーズン イーグルス代表決定戦 オンライン予選20位、本戦2位


 
 
 

 


撮影◉高橋弘喜/文◉郷内和軌

 
 
 
 
 


©NPB ©Konami Digital Entertainment

 
twitterボタンtwitterボタン
 
twitterボタンtwitterボタン