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スプラトゥーンで描く新たな未来

 
スプラトゥーン
稲垣 貴大(ろんつ)
   


老若男女に人気を博すスプラトゥーンにおいて、スクリュースロッシャーを駆使し全国トップレベルの「ウデマエ」を誇る稲垣貴大選手。最近はストリーマーとしても配信を続け、多くのファンを獲得している。「大好きな岩手を多くの人に知ってもらいたい」。彼が頭の中に描くのは、eスポーツが生み出す新たな未来の形だった。


 
 
 


4人1組でチームとなって地面にインクを塗り合い、その面積の大きさによって勝敗を争うスプラトゥーン。シューティングゲームではあるが、ルールの単純明快さから多くのプレーヤーに親しまれ、昨年9月に発売された最新作「スプラトゥーン3」は全世界で累計1000万本を超える販売本数を記録(昨年12月末時点)。国内外において大きな人気を博している。
 
現在29歳の稲垣貴大さんがスプラトゥーンを始めたのは大学生のとき。初回作が発売されて間もない頃、実況配信者のプレー動画を視聴し、自分もやってみたいと思ったのがきっかけだった。スプラトゥーンでは、身の回りのものを模倣したあらゆる「ブキ」を使ってインクを塗っていくが、稲垣さんが愛用するブキはスクリュースロッシャー。ファンの中では通称「洗濯機」と呼ばれ、一度に大量のインクを広範囲に放てるのが特長だ。
 
「なぜここまでスプラトゥーンにハマったのかは自分でもよく分かってないんですよ(笑)。ただ一つ言えるのは、たくさんのブキがある中でスクリュースロッシャーを持ったときに『これはすごく自分に合っているな』と感じて、ブキを触るのがすごく楽しかったんです。脇目も振らずにそのブキで遊び続けることを、今までずっと続けてきたような感覚です」
 
最初は大学の友人と一緒になってプレーする程度だったが、その楽しさにだんだんとのめり込んでいった稲垣さん。オンライン上でバトルを交わしランクを上げる「ガチマッチ」にも参戦し、ウデマエと呼ばれるスプラトゥーンにおけるレベルの指標はマックスのS+99まで到達。それからはSNSで仲間を募りながら、オンライン上でひたすら猛特訓に明け暮れた。社会人となってからもプレーを続け、有志が開いた非公式の大会にも積極的に参加。すると自らの意識にも変化が生まれ始めていく。「大会に何度も出させてもらううちに、有名なプレーヤーの方々に声を掛けていただけるようになりました。そのあたりから『もしかしたら上を目指せるのかもしれない』という自覚が芽生えるようになりました」


 

 
 


そして2017年、満を持して挑んだのが「スプラトゥーン甲子園」だ。この大会はスプラトゥーンにおける国内最高峰の舞台として知られ、全国各地で行われる地区予選を勝ち抜いた精鋭たちが一堂に会し、真のナンバーワンを決めるイベントである。地区予選は居住地問わず出場が可能で、初出場となった第3回大会は東海地区にエントリー。ここは惜しくも準決勝で敗退するが、中国地区にエントリーした18年の第4回大会、稲垣さんが所属する「閃華裂光」は56チームの熾烈なトーナメントを制し、地区代表の座を見事勝ち取った。
 
翌年に開かれた本戦は残念ながら初戦敗退に終わったが、同年5月、スプラトゥーン甲子園の応募チームの中からスカウトされた12チームがプロ野球12球団を代表して競う「NPB eスポーツシリーズスプラトゥーン2」にも参加。閃華裂光は東北楽天ゴールデンイーグルスの指名球団として本戦を戦い抜くなど、稲垣さんは全国大会でたしかな足跡を刻んだ。
 
しかし、コロナ禍以降はオフラインの大会が相次いで中止。「みんなで実際に集まって、勝つ喜びや負ける悔しさを分かち合えるのが楽しかった」という稲垣さんにとっては、物足りない日々が続いたことだろう。また、ここ数年は自身の病気療養もあり、以前ほどのプレータイムが取れなかったという。「もう一度、一から鍛え直さなければいけませんね」と気を引き締め、眠っていた情熱を沸々と湧き上がらせている。


 

 
 


スプラトゥーンを始めて早7年。このゲームの一番の魅力は何かと尋ねると、稲垣さんはこう答えた。
 
「大会に行ったら、おばあちゃんが孫と一緒に試合していることもありました。シューティングゲームですが、必ずしも敵を倒すことが目的ではありません。他のタイトルに比べ、いろいろな年代の人たちが楽しめるゲームなのではないかと思います」
 
スプラトゥーン、そしてeスポーツの地位を高めていくためにも「ゲームを知らない人が見ても楽しめるようなものにしていきたい」と理想を掲げる稲垣さん。その入り口として最近活発に行っているのが、ストリーマーとしての実況配信だ。自らが他のプレーヤーの動画を見てスプラトゥーンを始めたように、画面を通じてその魅力をどんどん広めていきたいとしている。
 
また、稲垣さんにはもう一つの目標がある。それは自分がプレーヤー、ストリーマーとして有名になることで、生まれ故郷である岩手の街を多くの人たちに知ってもらうことだ。
 
「ありがたいことに配信中は、古くからのファンの方々、最近になって自分のことを知ってくれた方々がたくさんコメントを寄せてくださります。自分は岩手のことが大好きなので、ある意味での『インフルエンサー』になって、岩手の素晴らしさをもっと発信していきたいです」
 
相手と競うことだけが、スポーツの全てではない。スプラトゥーンに魅せられた1人の青年が掲げた大きな夢。それはeスポーツがもたらす、新たな未来の形なのかもしれない。


(2023.11.7)
 
 


TAKAHIRO INAGAKI◉1994年生まれ、一戸町出身。岩手大在学時にスプラトゥーンを始める。幼少期は両親の仕事の都合で県内を転々とし、小学6年から盛岡市在住。小学3年から中学まで野球を続け、盛岡第三高校では美術部に所属。イラストも得意とし、自身のX(旧Twitter)でも発信を続けている。
アカウント→@lontu602


主な成績◉
第4回スプラトゥーン甲子園2019 中国地区大会優勝


 
 
 

 
 


撮影◉坂本廣美/文◉郷内和軌

 
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